小説の記述にルールはありません。なので小説を執筆したいと思っても、書き方に迷うことは多いでしょう。ネットで調べても、一般論がずらりと出てきます。そういった知識も必要かもしれませんが、個人的には自分がどう書きたいかを考える方が上達すると思っています。
今回はその考えに沿って、私が実際に使っている持論を4つ紹介します。
この記事で紹介する4つの持論
- キャラの見た目は自分の好みで決めて良い
- 文体のテーマを決めれば表現や同義語の取捨選択が楽になる
- リアリティは作品のテーマ次第
- 作中の世界では現実のルールと矛盾しても構わない
持論1キャラの見た目は自分の好みで決めて良い
「作者の好みを反映させたキャラ」と聞くと、自己投影だの自己満足だのといった批判を連想する人がいるかもしれません。心配ご無用。見た目を好みで決めるのは、むしろ自然な手順です。
大抵の場合、キャラの見た目はストーリーや設定の細部を練るより先に決めます。キャラがいなければストーリーも設定も動かせないからですね。設定を考える前なら、キャラクターがピンク髪である理由や碧眼である理由をいちいち考えたりしないのです。
神秘的なキャラにしたいから白、情熱的なら赤といったように、属性に見た目が多少引っ張られることはありますが、例外はいくらでもあるので結局好みであることは変わりません。
どう思われるかも気にしなくて大丈夫です。完全な好みで決めたとしても作者本人をキャラとして小説に登場させるか、不自然に優遇でもしない限り、ストーリーの展開に影響を与えることはないし、読者が知る術もありません。仮に銀髪好きだから銀髪のキャラを多く出しても、それはそれで統一感があって個性が出ます。
好みで決めることには実利もあります。愛着です。自分の「好き」を詰め込んだキャラは、書いていて単純に楽しい。楽しく書けるキャラは動かす機会が増え、動かすほど性格や口調が固まっていきます。見た目の好みが、結果としてキャラの中身まで育ててくれるわけです。
持論2文体のテーマを決めれば表現や同義語の取捨選択が楽になる
見た目の次は、文章そのものの話。こちらも決めるのは作者ですが、無数の選択肢から毎回フィーリングで選ぶのはしんどいので、基準をひとつ作っておきましょう。
どんな作品にも文章の個性があります。書き始める前に「この小説の文体テーマは◯◯」とひとこと決めておくだけで、執筆中の迷いが目に見えて減ります。
例として、「静寂」と「静けさ」のどちらを使うか迷っていたとしましょう。どちらも静かな状況を指す言葉で、意味だけ見ればほぼ同じ。でも「透き通った文章にしたい」とテーマを決めていれば、迷わず「静けさ」を選べます。
なぜなら「静寂」は熟語なので多少の硬さがあり、かつ濁点も混じっているからです。
「静寂」は音読みの熟語なので、漢字二文字ぶんの硬さがある。おまけに「じゃく」という濁った響きが耳に残ります。透明感が欲しいなら避けた方が良いでしょう。対する「静けさ」はひらがなでほどける和語で、頭の「し」も締めの「さ」も澄んだサ行です。個人的な感覚ですが、頭文字がサ行の言葉や、「ひかり」「ほそい」のように語末の母音がイになる言葉も、透き通って聞こえます。
そう考えれば、「きらめく」と「ぎらつく」なら迷わず前者。「呟く」より「囁く」など。また、文章全体に空・温度・寒色系に関する単語を散らすのもアリですね。
ここまでの理屈を全部乗せて、試しに一場面書いてみましょう。夜明けの湖です。
例文:透明テーマ
空の色がうすく変わる。湖面を、細い光がすっと走った。息を吸うと、胸の底まで冷える。
濁点ゼロ、サ行と語末の母音がイの言葉多め。狙って書くと、文章はここまで澄みます。
「壮大な文章」が好みなら空間・音・動きに関する単語を優先しましょう。地平、奔流、轟きなどで規模感が増します。体言止めも効果的です。
コツは、選んだテーマと似ている概念を探すことです。「暖色」と「寒色」なら、透き通っている感があるのは後者。「壮大さ」と「空間・音・動き」には、上限がないという共通点があります。テーマから連想を広げて、使う単語をあらかじめ引き出しに仕分けしておくイメージです。
同じ夜明けを壮大テーマで書き直すと、こうなります。
例文:壮大テーマ
地平の果てが燃え、光の奔流が湖を貫く。山々が目を覚まし、風が谷を渡って轟いた。夜明け。
内容はどちらも「湖で朝が来た」だけです。
日本語は同義語の宝庫です。「美しい」「綺麗」「麗しい」あたりは意味こそ近いものの、質感はまるで別物。基準を持たずに書くと、その場の気分で言葉を選ぶことになり、文章全体の手触りがばらつきます。テーマがあれば選択は速くなり、仕上がりには統一感が出る。読者はこの統一感を「雰囲気」や「世界観」として受け取ってくれます。
ちなみに、テーマは一作品にひとつと決まっているわけでもありません。視点人物ごと、章ごとに切り替えれば、地の文だけでキャラや場面の空気を描き分けられます。回想シーンだけ透明テーマにする、なんて使い方もあります。
持論3リアリティは作品のテーマ次第
創作ではちょくちょく話題になることですが、描写に対して読者から「現実では○○だからおかしい」と指摘されることはままあります。
分かりやすい例が「葬送のフリーレン」のハンバーグです。現実のハンバーグという名称はドイツの地名(ハンブルク)に由来します。そのため「ドイツが存在しない異世界に出てくるのはおかしい」、ひいては「実在の人名や文化に由来する名詞をファンタジーで使うのはNGではないか」と一部から指摘されました。
が、これについては正直どうでも良いです。
「リアリティが必要なのだから現実的にしなければならないのでは?」という反論も見かけますが、それはテーマ次第。将棋をテーマにするなら将棋のルールを守る必要がありますし、サイバーセキュリティをテーマにするなら専門知識を学ぶ必要があります。守るべきは、作品の芯に関わる部分のリアリティです。
フリーレンはグルメ漫画ではありませんし、なんなら舞台は現実ですらないファンタジー世界。独特な固有名詞ならまだしも、ハンバーグという名称の由来まで作品用に用意して説明したところで、ページの無駄です。要するに、メインではないモブのような設定まで矛盾しないよう作り込む必要はないのです。
それに、仮に「ハンバーグ」ではなく「ハンベーグ」や「ベンバーグ」とでも呼んでいたら、読者からすればただ分かりにくいだけ。現実でよく知られている固有名詞を、わざわざ架空の固有名詞に置き換える必要はありません。
持論4作中の世界では現実のルールと矛盾しても構わない
ただし、条件がひとつだけあります。
例えば、現実の水は100℃で沸騰します。これを、作中で言及するなら「この世界の水は70℃で沸騰する」を正解にしても構いません。創作における設定というのは、良くも悪くも俺ルールだからです。作者がこうだと決めれば、それが作中における正解になります。読者の側も、「そういう世界なのだ」と先に提示されれば案外すんなり受け入れてくれます。極論、現実の東京が舞台でも、超能力で人が空を飛んで構わないわけです。
絶対に避けるべきなのは、俺ルールの中で矛盾することです。
第1話で「水は70℃で沸く」と書いたのに、第20話で当たり前のように100℃で沸かす。こうなると読者はそれを世界観ではなく設定ミスとして受け取ります。現実との違いには寛容な読者も、作中の矛盾には驚くほど厳しい。「この作者は自分の設定を覚えていない」と思われた瞬間、物語全体への信頼が揺らぎます。現実に嘘をつくのは自由、俺ルールに嘘をつくのは御法度。重要なのは、作中で提示したルールに矛盾しないこと、この一点だけです。
POINT
対策はシンプルで、決めたルールを設定メモに残しておくことです。箇条書きでも良いので。長編になると作者本人が俺ルールを忘れます。数値、固有名詞、能力の制限あたりは特に危ない。どうしても途中でルールを変えたくなったらご法度ですが、「ルールの例外となるキャラクターやアイテム」でも新しく出しましょう。
おわりに
4つの持論に共通するのは、決定権が作者にあるという点でしょうね。書くのが作者なので当然と言えば当然なのですが、読者に遠慮しがちな人は多いです。
書き方に迷ったら、正解を外に探す前に「自分はどう書きたいか」を一度だけ自問してみてください。その答えがそのまま、あなたの作品のルールになります。
とはいえ、創作の自由と責任はワンセットですが、描写済みの設定がブレることだけはやめましょう。

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